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はじめに 統計的因果推論における1つの達成目標として「介入を行った場合には行わなかった場合と比較してどの程度結果(アウトカム)が変わったのか」という因果的な疑問に対し、定量的に答えることが挙げられるかと思います。以前のコラムでは、こういった因果効果を数学的・統計学的に議論していくために潜在アウトカムという考え方を導入し、その値を推定していくために重要ないくつかの仮定について紹介を行いました。この因果効果の推定の手法には様々なものがありますが、次回以降のコラムで紹介をする交絡調整に基づく因果効果の推定手法 (e.g., 回帰、層別化、傾向スコアを用いた手法)では、興味のある因果効果の推定値をバイアスなく得るためには、交絡や選択バイアスの調整に必要な全ての変数が完全に特定・測定されているという仮定が成立している必要があります。この仮定はデータからその成立を検証することはできず、もしもいずれかが成立しない場合には得られる推定値にはバイアスが含まれ、いわゆる残差交絡 (redidual confounding) が存在する状況となります。現実的に仮定が全て厳密に成立するケースというのは比較的稀ですので、そのような意味では大部分の研究結果(特に観察研究)・解析結果には一定のバイアスが含まれているとみることもできるかと思います。ただし交絡調整に基づく手法がダメだと言っているわけではなく、調整が不完全ながらもバイアスを軽減することは十分に意義があり、また最終的に結果に含まれるであろうバイアスの大きさとその方向(過大評価 or 過小評価)を議論することが重要かと思います。 今回のコラムでは、操作変数法(instrumental variable methods, IV methods)という因果効果の推定手法について紹介と解説を行っていきます。この推定手法は、操作変数 (instrumental variable, instrument) と呼ばれるいくつかの条件を満たす特殊な変数を利用することで因果効果の推定を行う手法になります。医学分野では、先行研究の結果(e.g., 医学的な知見)から交絡因子となりうる変数の特定・測定が比較的容易であることから先ほど言及した交絡調整に基づく推定手法が用いられるケースが比較的多いですが、経済学や社会科学といった分野ではそもそもの特定が出来なかったり、仮に交絡因子であろうと見込んだ場合であってもそれを測定することができないケースが非常に多く存在します。そのため交絡調整に基づかない手法である操作変数法というのは経済学や社会科学において、特にその理論が発展してきたという歴史的な背景があります。なお詳細については後述しますが、操作変数法は交絡因子の測定を必要としないというメリットもある一方、いくつかの検証不可能な仮定に基づく手法です。したがって、解析を行う研究・データにおいて因果効果の推定のために要求される仮定の成立を認めることがどの程度妥当であるかの議論が他の手法と同様に必要であることにご注意ください。 操作変数の3条件 操作変数法では、ある介入AのアウトカムYに対する因果効果を推定するために以下の3つの条件を満たす変数Zを利用します。この変数Zは操作変数 (instrumental variable, instrument) と呼ばれます。 操作変数の3条件 (Theree instrumental conditions) Z is associated with A ZはAと関連する Z does not affect Y except through its potential effect on Y ZはYに対してAを介した以外の効果を持たない Z