SAS Japan
活用事例からデータ分析のテクニックまで、SAS Japanが解き明かすアナリティクスの全て
SAS Global Forum2019 三日目の参加レポートです。一日目、二日目に引き続き本日も数多くの魅力的なセッションが行われました。参加したセッションの中から特に興味深いと感じたものをいくつかピックアップしてご紹介します。 難民支援のためのデータサイエンス 最初にご紹介するセッションは”Data4Good: Helping IOM Forecast Logistics for Refugees in Africa”です。IOM(国際移住機関)と協力しデータを用いた難民支援の事例について説明しました。 今回の分析は主にエチオピアの難民キャンプについて行われました。まず難民キャンプの規模や種類、さらにどのような物資が不足しているかについての情報を、バブルの大きさや色を用いて地図上に可視化します。この結果から安全な水や入浴・洗濯の機会など主に公衆衛生に関する課題をどのキャンプも共通して抱えていることが分かりました。そこで公衆衛生に関する水・石鹸・洗濯などの具体的な要素について、それが不足しているキャンプの数をグラフ化した結果をもとに援助の優先順位を策定し、より効果的な援助を実現しました。次に、キャンプで生活する難民についての分析です。キャンプごとに、老人が多い・女性が多いなどの特徴があり、それに応じて必要とされる支援は変わってきます。しかし流動的なキャンプにおいてその傾向は日々変化することから、支援の過不足が発生していました。適切なタイミングで適切な支援を行うため、年齢や性別などに基づき難民をいくつかのセグメントに分け、それぞれについて一つのキャンプ内にいる人数を予測するモデルを作成しました。このモデルの予測を用いることで支援物資を適切なタイミングで必要量を配分し、無駄を削減しながら必要な支援を届けることが出来ました。さらに、IOMから集めたフィードバックを用いて日々モデルを改善し、よりよい支援を追求しました。 優秀なデータサイエンティストになるには 次に”How to Be an Effective Statistician”というセッションについてご紹介します。データサイエンティストとして20年以上の経験を持ち、第一線で活躍し続けているプレゼンターが、自身の経験を踏まえながら優れた統計家になるためのヒントを伝えました。彼は”Effective Statistician” とは、「適切な分析を、適切な方法で、適切なタイミングに行える統計家」と定義しています。そして、そのためには2つのスキルが重要だと語ります。 一つ目は「リーダーシップ」です。データサイエンティストは主としてチームで分析に取り組みます。データサイエンスには統計のスキルだけでなく、分析分野についての専門知識や根本的なビジネススキルなど様々な能力が必要であり、それらを全て備えている人は多くありません。そこでリーダーの出番です。各メンバーの得意不得意を考慮しながらタスクを割り振り、各々の欠点を補いながら総合力でプロジェクトを進めていきます。しかしここで「独裁的なリーダー」になってはならないと強調しています。ある課題を解決するためのデータを用いたアプローチの仕方は一通りではありません。チーム内でディスカッションを続け、一人一人の意見を尊重することで、課題の本質を理解し、チームとして大きなヴィジョンを描けるのだと語りました。 二つ目は「データを適切に解釈する力」です。データは何らかの解釈が付与されて初めて意味を持ちます。また、それを適切に処理する上でもデータの深い理解は不可欠です。データの表面上の傾向に踊らされず、本質を見抜き適切なアプローチを取るためには、やはりビジネスの知識が役に立つと語っていました。また、データの不足が判明した場合にはそれを収集する仕組みを新たに構築するなど、臨機応変に対応する力も要求されるとのことでした。 セッションの後、データサイエンティストには幅広いスキルが要求されることに呆然としたという学生の発言がありました。それに対し彼は「自分の可能性を制限しているのは多くの場合ネガティブな自己認識。どんなに優秀なデータサイエンティストでも10年後を正確に予測することはほぼ不可能で、10年後の自分を決めるのは自分自身。理想の自分になるため、日々できることを継続することこそ一番の近道。」というメッセージを伝え、学生を勇気づけていました。とても印象に残った言葉でした。 Kick Back Party さて、三日目の夜にはKick Back Partyが開催されました。バンドの演奏やカウボーイ衣装での記念撮影など様々な余興が催され、各々が素敵な時間を過ごしていました。個人的には、本場テキサスでロデオマシーンを楽しめたことが印象に残りました。日本でのパーティーとは一味違うアメリカらしい陽気な雰囲気を味わうことができ、貴重な経験となりました。
一日目に引き続き、SAS Global Forum 2019 の様子をお伝えします。二日目となる今日は主にStudent Symposium の様子についてレポートします。Student Symposiumはデータ分析スキルを競う学生用のコンペティションで、予選を勝ち抜いた八チームが各々の分析についてのプレゼンテーションを行いました(各チームの発表概要はこちら)。ここでは、特に印象に残った2チームの発表についてご紹介します。 起業を実現させる要因とは 1チーム目はオクラホマ州立大学のチームで、題名は”Exploring the Intensions of Entering Entrepreneurship for SAS® Global Forum 2019”です。起業が米国の資源の一つと言っても過言がないほど起業精神が浸透しているアメリカにおいて、起業を考える人は大勢いますが、全員が実際にビジネスを開始するわけではありません。起業の実現にどのような要素が影響するのかについて、データ分析により解き明かすことを目標とします。まず起業に関係する要素を「経済状況」「社会的要素(人脈など)」「人間性」「人類学的要素(ジェンダーなど)」の4つにカテゴライズし、起業に至った理由の中で最も大きな影響を与えたカテゴリを時系列に基づき分析しました。2008年ごろまでは経済状況が良かったこともあり、経済的必要性で起業する人は少数で、人脈などの社会的要素や人間性、中でも失敗を恐れない性格が起業を実現させる主な要因でした。しかし、2009年以降経済の悪化に伴い、自ら事業を立ち上げる必要性が出てきたことで経済状況に基づく起業が多数派となりました。その後経済が回復傾向になるにつれて再び経済状況の影響力は小さくなり、人類学的要素(ジェンダー)と人間性、特に功名心に基づく起業が増加しました。このように人々がビジネスを始めた理由を分析することで、今後の起業のトレンド予測や起業支援につなげるとのことでした。 バイアスのない公平な記事を書くために 2チーム目も同じくオクラホマ州立大学のチームで、題名は”Identifying Partisanship in Media Article”です。米国には強力な二大政党がありますが、それぞれの主張を対等に報道しているメディアは少なく、多かれ少なかれ偏りが生じています。偏りのある報道に晒され続けることで、盲目的にある党の主張が正しいものと信じ込んでしまい、深く考えずに投票してしまう事例も増えています。そこで、報道のバイアスを測るモデルを作成し、バイアスチェッカーとしての応用を考えることが本発表の目標です。初めに、二つの党の公式声明から、各々の政党の主張の特徴を学習させます。得られたモデルに各メディアの記事から抽出したキーワードのトピックを当てはめ、その記事を出したメディアがどちらの党派かを判別します。その結果、このモデルは90%以上の精度で記事からメディアの党派の判別が可能でした。このモデルを用いると、党派を感知されないような公平な記事を書くことができ、結果として偏りのない情報発信の助けになるとのことでした。 この二チーム以外の発表も面白いアイデアと確かなデータ分析手法に基づく非常に興味深いものであり、自分と同年代の学生がこれほどの研究・発表をしているのかと大いに刺激を受けました。彼らに負けないよう今後も精一杯頑張ろうと思います。 eポスター発表 本日は私もe-Poster Presenterとして分析結果の発表を行う機会を頂きました。”Forecasting CO2 Emissions of Electrical Generation By Using SAS® Software”と題し、発電において必要とされる各種条件を満たしながら、CO2排出量を最小にする電源構成の最適化モデルを構築し、2030年におけるCO2排出量をモデルごとに推定しました。様々な国からの参加者の皆様に発表をお聞きいただき、ディスカッションをしたりフィードバックを頂いたりと、非常に有意義な経験となりました。 詳しくは、6月11日に六本木のグランハイアット東京で開催されるSAS Japan 最大の年次イベントSAS Forum Japan 2019 内、"アナリティクスは営利目的だけじゃない!大学生が挑む Data
世界で二番目に大きいと言われる空港を有し、美しい新緑が広がるここテキサス州ダラスにて、SASの一大年次イベント、「SAS Global Forum 2019」が4/28~5/1に開催されています。数々の魅力的なセッションが催されており、各地からの参加者で今年も大盛況です。私は、同年代の学生たちがどのような活動をしているのか、また、後述するData for Good活動を推進するにはどうすればよいかを学ぶため、アカデミックセッションを中心に参加しました。本記事では一日目(4/28)のAcademic Sessionについてレポートします。 学生向けセッション Student Sessionでは、世界各地から集まった学生の視野を広げること、将来の一つの指針を授けることを目的として様々なプレゼンテーションが行われました。 データサイエンティストによるパネルディスカッション 最初に、経験豊かなデータサイエンティストたちをプレゼンターに迎え、「データサイエンティストになるには何を学べばよいか」「どのような人材が必要とされているか」などについてパネルデスカッションが行われました。データサイエンティストという概念は近年になって急激に広まったものであり、教育制度が追い付いていないという現状があります。データ分析の知識に加え、金融やビジネスなど、多岐にわたる応用的な知識にも精通していることが要求されており、それらを包括的に学ぶ方法や・何を専攻するかについての疑問を抱く学生は多いでしょう。それに対してプレセンターの一人は、「まずは統計学やプログラミング手法等の核となるデータ分析スキルを身に着けるべき」とアドバイスしていました。応用的な知識は本や授業で学ぶだけでは不十分で、社会での実践を通して学ぶ必要があります。そこで、まずはどこへでも応用可能な基礎力を身に着けてから、実践として各々の分野の専門知識を身に着けるべきとのことです。「自分が心から面白いと思う分野」に出会い、高い意欲と向上心を持って取り組める人材が求まれており、その分野が定まっていないうちは、最初にデータ分析の勉強をすべきと語っていました。 参加していた学生の多くは大学や大学院にてアナリティクスを専攻しているようでしたが、中には経営学を学ぶ中で副専攻として統計学を勉強している学生もおり、Global Forumならではの多様性を感じました。 Data for GoodとGather IQ 続いて、SAS USAのI-Sah Hsieh氏からData for Goodについてのプレゼンテーションです。I-Sah氏はハリケーンや地震などの災害時に、支援活動に関する意思決定をより効果的に進めるためのデータ分析プロジェクトを行った経験があり、それぞれの事例に関して紹介しました。それを通して、彼は「学校で学んだ知識を高々一セメスターだけにとどめているのはもったいない、積極的にアウトプットすべき」と強調し、その方法の一つとして、社会問題を解決するためにデータ分析であるData for Goodを紹介しました。彼は現在、国連の掲げる持続可能な開発目標(SDGs)に対してデータを用いたアプローチに取り組んでいます。貧困をなくすため・教育機会を増やすため、データを使ってできることは何でしょうか?その学びの一環として、一新されたSASのData for Goodアプリ、Gather IQが紹介されました。SDGsの17つの目標それぞれに対応して、問題の把握やデータの活用に役立つ様々な解説記事や分析結果が公開されています。各問題に対応するゲームや募金の仕掛けなどもあり、より多くの人にData for Goodのすそ野を広げるような仕様になっています。ぜひ一度お試しください。 講演後、個人的にI-Sah氏と直接ディスカッションをしました。Data for Goodの意義を再確認し、活動の進め方やデータ分析についてアドバイスをいただき、大変有意義な時間となりました。本ブログでもたびたびご紹介しておりますが、JapanでもData for Good 活動を推進する学生コミュニティがあり(第1回勉強会レポート)、様々な社会課題に対して主体的に分析を進めています。また、データ分析手法を学ぶ勉強会も開催予定です。ご興味のある方はこちらまでご連絡ください。JPNAcademicTeam@sas.com Student Sessionの締めくくりとして、金融やヘルスケアに関するデータサイエンスの具体例が紹介されました。また、夜に行われたOpening Sessionにおいても機械学習やアナリティクスの実用例が紹介され、データサイエンスの無限の可能性を感じました。 大学教員向けセッション 続いて、SAS Global Forum大学教員向けアカデミックセッションについてのレポートです。本セッションでは、データのプライバシーと倫理について、講演とテーブルごとにディスカッションを行いました。 テーマ(1) データサイエンスの隆盛と倫理 データサイエンスの拡大とともに、扱うデータの量と種類が増加してきました。それにより、少数の人間が大きな害悪を発生させることができるようになり、また、データ発生元の同意や認知を得ることが難しくなっています。さらに、データの発生時、取得時、操作時にバイアスが含まれてしまう可能性も大きく、このような状況のもとで、大学教育について以下の点でディスカッションを行いました。 学部としての、または大学としての責任は何か? 倫理についての講義は必要か? 民間企業や官公庁とどのように協力すればよいか。
SAS Japanでは昨年末より”Data for Good”を目指す学生コミュニティ「SAS Japan Student Data for Good community」を運営しています。このコミュニティでは世界の絶滅危惧種や通勤ラッシュ時の鉄道混雑緩和など、データを活用した社会課題の解決に取り組んでいます。 活動を更に加速させるために、Data for Goodのケーススタディを通じた課題設定・アナリティクスの適用法を学ぶ勉強会を開催しました。 この記事では勉強会の中で取り上げた事例を2つ紹介します。 1.ネパール地震でのIOMによる支援 1つ目の事例はSAS USが国際移住機構(IOM)と協力して行ったネパール地震における復興支援です。 2015年4月25日に起きたネパール地震では約90万棟が全半壊し、多くの住民が仮設キャンプ場での生活を余儀なくされました。IOMは現地でキャンプ場の運営等の支援活動を行っていましたが、6月から始まる本格的な雨季を前に風雨を凌げる住居の提供が喫緊の課題でした。 IOMの要請を受けたSAS USは国連商品貿易統計データベース(UN Comtrade)を利用した各国のトタン板の生産能力を分析し、その結果迅速なトタン板の供給を実現しました。この事例からは次の事が学べます。 データの可視化によって意思決定の支援ができる この事例では住宅復興支援に必要な物資の素早い調達という課題に対し、国連商品貿易統計データベースの300万件ものデータをSAS Visual Analyticsで分析し仕入れ先を可視化することで解決しています。 複雑で膨大なデータも適切に分析・要約・可視化することで経験ではない科学的根拠に基づいた新たな知見を導くことができます。 2. 大学中退率の改善 2つ目の事例はData for Goodを推進する社会団体であるDataKindが取り組んだアメリカのとある大学の中退率の改善です。 日本の大学と比べアメリカの大学は中退率が高く、 National Student Clearinghouseによると約半数近くの学生が学位を取得せず辞めていきます。DataKindは大学の依頼を受け、どの要素が中退に影響を与えるのか、また中退の危険性のある学生を事前に特定することに挑みました。 デモグラフィックデータや学業成績などの学生情報を10年分以上分析したところ、入試の成績と卒業は関連が確認できなかった一方で、GPAや専攻などが卒業に影響を与えていることが判明しました。 この結果を踏まえ20以上もの異なるアプローチのモデルを生成し改良を重ねた結果、生徒の中退を高い精度で予測するモデルを生み出しました。 詳しい内容は原文をご覧ください。この事例からは次の事が学べます。 未来を予測して事前に対処する この事例では、中退率の改善という課題に対して統計分析や機械学習を駆使し事前に中退リスクのある学生を特定することで解決を目指しています。事前の把握ができれば大学側は効率的な学生への支援が可能となるはずです。 上記以外にも参加者それぞれが事例紹介を行い、課題に対してのアナリティクスを用いたアプローチ方法を学びました。勿論データを分析のみで課題をすべて解決することはできませんが、従来の方法では成し得なかった突破口を生み出すことが実感でき、私たちの現在の取り組みに大きな示唆をもたらした有意義な会となりました。 SAS Japan Student Data for Good communityでは引き続き学生の参加者を募集しております。社会貢献を目指す活動を通してデータサイエンティストの役割である「課題の設定」から「データを用いた解決法の提示」までの一連の流れを経験できます。 興味をお持ちでしたら以下のアドレスまでご連絡ください。 JPNAcademicTeam@sas.com