製造業DXにおけるITとOTとの融合 (5) – センサデータの品質を向上させる7つのポイント(中編)

0

医者の診断に例えて学ぶ
AIを用いたセンサデータ分析システムに関するよくある誤解について

製造業で盛んに導入されているセンサ。そのセンサデータを分析してビジネスインパクトのある結果を出すには、どのようにしたら良いのでしょうか? データ分析を成功させるためには、様々な要素が考えられますが、ここではセンサデータの質に注目したいと思います。いくら高度なデータ分析手法を用いても、分析対象のセンサデータが正しく取得できていない場合は、結果が出ないことは容易に想像できますが、あまり議論されることはありません。 これは、センサ計測とデータ分析の両方を視野に入れた幅広いノウハウが必要となり、Information Technology (IT) と Operational Technology (OT)との融合という課題に行き着くためです。
本ブログでは、このマニアックな話題を、医者の診断に例えながら、わかりやすく解説していきます。


記事の振り返り: 自覚症状が無いセンサデータの品質問題

 これまで「自覚症状が無いセンサデータの品質問題」をテーマとし、前回は「センサデータの品質を向上させる7つのポイント(前編)」についてお話ししました。生産ラインのDXのために、センサデータを用いてデータ分析をしているのだが、思うような結果が得られていないケースが市場で発生していることをお伝えし、その原因の一つとして、分析対象となるセンサデータ自体の品質問題があることをお伝えしました。
この問題は関係者が気付きにくく、対処方法も専門知識と経験が必要となります。 そこで、「センサデータの品質を向上させる7つのポイント」について、今回の中編では下記の④~⑤まで御説明します。

 . センサデータの品質を向上させる7つのポイント

④センサの設置方法

 センサは種類に応じて必ずメーカが推奨する設置方法が決められています。図2は圧電型加速度センサの設置方法と注意点であり、加速度センサメーカから提供されている一般的な公開情報です。重要なのは、設置方法によっては必要なデータが得られないことです。例えば、計測可能な上限周波数は、プローブだと1 kHzが限界ですが、ネジ留めだと15 kHz近くまで測れます。これも筆者が経験した事例ですが、ユーザ様が自己流で両面テープを用いて加速度センサを貼り付けておられたために、振動が吸収されてしまい、正確な計測ができていなかったことがありました。これはさすがに、高度なデータ分析を実施する以前の問題でしたので、すぐに改善をお願いしました。

.  加速度センサの設置ミスによる振動データのロスト

 

⑤データ収集装置の選定

 データ収集装置自体の性能不足が問題になることがあります。これは盲点であり、自覚症状が出にくいものです。たとえ高精度なセンサを設置してデータ収集したとしても、適切なデータ収集装置を選定しなかったために、データの精度を低下させてしまうケースがあります。特に重要なのは、サンプリング周波数、分解能、同期計測の3つです(図3)。

. 適切な計測装置の使用が不可欠

 サンプリング周波数に関しては、計測器の選定基準の一つとして必ずカタログ等に記載されており、また、近年はサンプリング周波数が不足しているデータ収集装置は稀なため、選定ミスの原因にはなりにくくなっています。しかし、分解能に関しては注意が必要です。例えば、加速度センサやマイクロフォンを用いた計測では、
24 bit分解能のデータ収集装置を使用するのが業界標準だが、16 bit分解能の装置を使用しているケースがあります(一般的なオシロスコープは8 bit分解能)。この場合、計測データに与える影響としては、波形再現性の悪化と微少な変化の取りこぼしが発生します。仮に機械学習を用いて異常検出をするとしたら、感度不足が起こる可能性があります(表1)。
 

表1. センサ計測ミスの原因とデータ分析に与える影響
 

 極めて重要であるにもかかわらず、ほとんど意識されていないのが、同期計測です。各種センサデータ同士の時間的タイミングが取れていない場合は、厳密なデータ分析ができない場合があるからです。例えば、周期性のある回転機械や往復運動機械の異常検知を行う場合には、各種信号の立ち上がりタイミングや信号の発生サイクルが異常検知上、大きな意味を持つため、同期が取れていないデータでは異常検出が困難な場合あります(図4)。厳密には、計測装置の同期精度が、実施したいデータ分析用途に合っているかどうか判断する必要があります。高速動作をする精密機械の状態監視では、マイクロ秒レベルの同期精度が要求される場合もあり、一般的な工作機械ではミリ秒レベルで十分な場合があります。

図4.同期計測の重要性

データ収集装置の選定ミスにより、不具合の発見ができなかったという事例を、筆者は数件経験しています。例えば、高速印刷機の印刷ズレの原因分析に携わった時のことです。原因はベアリングのわずかな損傷で、それが原因で印刷ズレが発生していました。ですが、お客様のお持ちのデータ収集装置は、サンプリング周波数と分解能が低く、異常波形が検出できておりませんでした。そのため、筆者が持ち込んだデータ収集装置を使い原因分析は成功しました。加速度センサは最高のものでしたが、それを活かしきれるデータ収集装置の選定に問題があったという事例でした。

これまでの記事で、センサデータの品質を向上させる7つのポイントのうち5つを紹介してきました。
残り2つのポイントは、後編にて御説明します。

前回のブログ  次回に続く

Share

About Author

Leave A Reply

Back to Top