サステナビリティ経営へのアナリティクス (1)

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はじめに

近年サステナビリティ経営は多くの分野で注目されています。環境・社会の変化や価値観の変革に対応しながら、長期にわたり市場から求められ、継続的に価値提供を行い、社会から信頼され続けることが企業にとって最も重要と考えられています。
最近では、気候変動、COVID-19パンデミックなどの社会環境の変動により、生活者、消費動向、企業活動、サプライチェーンなどに大きな影響を及ぼす中で、どのように対応し取り組んでいくかが喫緊の課題となっています。
今回のブログでは、これらの変化対して持続可能な世界を実現するための「サステナビリティ経営」に関してSASのアナリティクスアプローチをテーマに数回にわたり見ていきたいと思います。

SDGsとESG

地球規模の課題を踏まえた全世界共通の持続可能な成長戦略であるSDGsは、今や大企業の多くがサステナビリティ経営*1の計画にマテリアリティ(重要課題)として織り込み取り組まれています。また、環境・社会・ガバナンスの観点で企業活動を分析評価するESG*2は、企業価値を見通す上での重要性として認識されています。

アナリティクスが果たす役割

環境や社会で起こっている多くの変化は、生活者の価値観および消費活動に変化をもたらします。企業は、その変化を的確に捉え迅速に対応していくことが求められます。それらの変化を近年のデジタル・テクノロジーを用いて迅速に把握し、AIやアナリティクスによるインサイトに基づく意思決定や課題解決、商品やサービスの継続的な改善や高度化などにより新たな価値を提供することは、企業のサステナビリティと競争力を創出し、サステナビリティ経営において非常に重要となります。
中長期計画のマテリアリティとして掲げられたSDGsの達成度評価やESG評価においてもアナリティクスの手法を用いた評価手法やツールが多く用いられ、企業活動の見える化を推進するとともに、投資家などへ開示することでESG投資を促すとともに、企業価値向上や創造を進めています。SASは、AIによるESG管理とレポート作成に関するサービスを提供しています。
また、企業や組織の活動においても、AIやアナリティクスによるインサイトや予測といったデータ利活用をもとに、CO2削減、エネルギー対策、フードロス削減、水資源保全、汚染軽減など様々なサステナビリティに関する課題解決に向けて、アナリティクスが活用されています。*3*4

SASの取り組み

SASは自社のCSR活動として、エネルギー節約、GHG(温室効果ガス)排出管理、汚染軽減、水保全、グリーンビルディング、およびその他のプログラムにより環境を改善などに取り組んでいます。また、サステナビリティ経営のリーダーおよび提唱者として、高度なテクノロジーと経験豊富なスタッフにより、多くのソフトウエア、ツール、サービスなどを企業や組織に提供してきています。これらは追って紹介いたします。今回はSASのCSRレポート*5から抜粋してSASの取り組みをいくつか紹介します。

アナリティクスによる人道支援/社会支援

ビッグデータアナリティクスが世界中の短期および⾧期の開発⽬標の達成に役立つという広範な証拠があります。アナリティクスの世界的リーダーとして、SASは、貧困、病気、飢餓、⾮識字などの社会の最⼤の問題のいくつかを解決するために、最先端のテクノロジーと専⾨知識を適⽤することに情熱を注いでいます。
SASは、常により良い世界を構築するためにそのテクノロジーを使⽤することを挑戦しています。国連のSDGsが不平等を減らし、健康的な⽣活を確保するために取り組んでおり、SASはそれがすべての⼈にとってより明るい未来を創造するのを助けることができる機会を探しています。 SASの社会イノベーションイニシアチブは、世界の進歩を加速させ、世界をより持続可能な未来に向けて動かす創造的な⽅法の発見を支援します。 SASがこの⽬標をサポートする⽅法の1つは、 Data for Goodを推進する運動です。貧困、健康、⼈権、教育、環境に関する⼈道問題を解決するために有意義な⽅法でデータを使⽤することを奨励します。

⾼度なアナリティクスとIoTによる健康なミツバチの個体数の増加

World Bee Countを使用すると、ミツバチのデータをクラウドソーシングして、地球上のミツバチの個体数を視覚化し、これまでのミツバチに関する最大かつ最も有益なデータセットの1つを作成できます。 SASのデータ視覚化により、クラウドソーシングされたミツバチや他の花粉交配者の場所が表示されます。 プロジェクトの後の段階で、研究者は作物の収穫量、降水量、その他のハチの健康に寄与する要因などの重要なデータポイントを重ね合わせて、世界の花粉交配者のより包括的な理解を集めることができます。

Joseph Cazier, アパラチア州立大学分析研究教育センター教授兼常務理事

 

ミツバチを救うことは私たちの⾷糧供給にとって最も重要であり、⾼度なアナリティクスがミツバチと私たちの未来を維持するための鍵となる可能性があります。 SASのモノのインターネット(IoT)、機械学習、視覚アナリティクス機能により、健康なミツバチの個体数の維持とそのサポートができる可能性があります。
2020年、SASは、テクノロジーが世界中の花粉交配者の個体数を監視、追跡、改善する3つの別々のプロジェクトに参加しました。まず、SASのデータサイエンティストは、聴覚データと機械学習アルゴリズムを通じて、侵入しないで蜂の巣のリアルタイムの状態を監視する⽅法を開発しました。 SASはまた、世界のミツバチの数についてアパラチア州立⼤学と協力して、世界のミツバチの個体数データを視覚化し、それらを保存するための最良の⽅法を抽出しました。さらに、SAS Viya Hackathonの受賞者は、機械学習を通じてハチのコミュニケーションを解読し、⾷料へのアクセスを最⼤化し、⼈間の⾷料供給を増やしました。

困っている⼈を助けるための最善のサポートを理解する

私たちの優先事項は、人生の最も困難な季節を通して家族を支援することです。その仕事の多くは、目に見えないところに隠れているホームレスを支援することです。それが私たちの最善の策です。SASは私たちの目の前でデータを取得し、以前は見ることができなかった隠された洞察を発見することができました。それはSASが最も得意とすることです。正直なところ、完璧な組み合わせでした。
Leslie Covington, Executive Director, The Carying Place

 

 

ホームレスに苦しんでいる多くの人は、自給自足できるための指導と支援を求めてThe Carying Place(TCP)に目を向けます。 手書きのドキュメントと一貫性のないスプレッドシートの山の中に27年分のデータがあるため、TCPはSASを利用して、参加者の成功の指標をより適切に測定し家族にふさわしい支援を提供しました。 SASボランティアは、デモグラフィック、保険、住宅、退役軍人のステータス、障害のステータス、予算ファイルなど、参加している家族のデータを分析し、TCPのニーズを最もよくサポートできるモデルを選択しました。 現在、TCPはデータの基本を理解しており、アナリティクスライフサイクルを進めて、コミュニティにサービスを提供するためのより優れたデータ主導での意思決定を行っています。

クラウドソーシングとAIの力による森林破壊との戦い

これらの変革に取り組むための緊急性には、最高のテクノロジーソリューションの適用が必要です。 環境科学研究プラットフォームの力、SASのAIとコンピュータービジョン技術、そして関心のある市民の純粋な知的力を組み合わせることで、人間の洞察の価値を飛躍的に高め、地球環境の変化をほぼリアルタイムで評価することができました。

Albert van Jaarsveld, IIASA CEO

 

 

2,000種以上の動植物が⽣息するアマゾンは、⼈間が毎⽉800平⽅キロメートル以上の森林を破壊しているため危険にさらされています。 SAS、国際応⽤システム分析研究所(IIASA)、そして世界中の参加者(今日の仮想教室の中学生からアーティスト、エンジニア、プロのデータサイエンティストまで)が協力してこの重⼤な問題に取り組み、熱帯⾬林の衛星画像から⼈間への影響を特定し森林破壊の防止に取り組んでいます。
このプロジェクトのためにSASとIIASAは共同で、参加者のインテリジェンスを収集して集合知とするためのオンラインクラウドソース駆動型アプリケーションを開発しました。参加者は、このアプリケーションを利用してAIアルゴリズムを自ら改善することでアナリティクスプロセスを促進し、熱帯雨林の画像をレビューして判断することで、分析に何年もかかっていたことを迅速化し、森林をより適切に保護するための重要な政策対応を推進させます。

井⼾の配置を最適化して⽔の貧困をなくす

私たちのデータの分析は、私たちのデータ視覚化手法の次の段階について考えるのに本当に役立ちました。 私たちは中央アフリカ共和国のすべての人にきれいな水を届けることを目指しています。私たちの事業を計画し、国レベルで政府や他の組織と調整するためには、住民の水需要を適切に視覚化することが重要です。 これは、私たちだけでは実行できなかった複雑な分析のレベルです。 SASは、将来のプロジェクトを計画する際に、このデータの信頼性をよりよく理解してくれました。

Jon Allen, Water for Good, CEO

 

Water for Goodは、中央アフリカ共和国(CAR)の水貧困を終わらせることを目的としており、全国にきれいな井戸を掘削し、長期的な成功のためにそれらを維持するためのシステムを構築しています。
CARの特にサービスの行き届いていない地域において、そして2030年までに国全体で水貧困をなくすという目標をよりよく達成するために、非営利団体は既存の井戸の状態をよりよく理解し、新しい井戸を掘削するのに最適な場所を決定する必要がありました。 SASボランティアのチームは、SAS Visual Analyticsを使用して構築されたカスタムダッシュボードを作成しました。このダッシュボードは、新しい井戸の最適な場所を提案するために、水へのアクセスに関する多くの重要なデータポイントが1つのマップに重ね合わせられます。 2番目のプロジェクトでは、SASとWater for Goodは、組織から手動で収集された国勢調査データを補足するために、公共のオンラインソースからの衛星データを使用して、組織がCARでより正確な人口データを収集できるようにすることを目的としました。カスタム・ビジュアライゼーション・マップと国の人口データのより良い理解により、Water for Goodは、地域全体の何百万もの人々に清潔で長持ちする水を最もよく提供するために、より良いデータドリブンによる意思決定を下すことができます。

世界的大流行の際のメンタルヘルス患者の安全の確保

私たちが常に意思決定をしなければならない状況では、患者とスタッフの身体的健康を維持するために、患者の精神的健康を損なうリスクがあります。私たちが利用できる最高の情報を1つにまとめることが重要です。 集約レベルとセンターレベルの両方で簡単に概要を確認できます。

Martin Lund, コペンハーゲン地域精神医学センター所長

 

 

2020年3月、コペンハーゲン地域精神医学センターの経営陣は、病院内外からの患者とスタッフの伝染のリスクを制限しながら、メンタルヘルス患者のニーズが満たされていることを確認する方法を見つける必要がありました。 SASの北欧医療チームは、SAS Visual Analyticsに自動ダッシュボードを設定しました。このダッシュボードは、COVID-19パンデミックがケアセンターに与える影響に関する最も重要なデータの概要を病院の管理者に提供します。 ダッシュボードは、毎日の管理会議で重要な役割を果たし、センター全体および個々のセンターのCOVID-19症例のステータスを示し、さまざまな場所で患者を受け入れることが安全かどうかやスタッフの病欠の程度に関する意思決定に役立ちます。 この情報はすべて、パンデミックが精神科医療を提供するセンターの能力の影響評価に不可欠となっています。

パンデミックと闘い、⾼度なアナリティクスを通じて市⺠の安全維持を⽀援

オリッサ州は、ビッグデータや高度な分析などの新しいテクノロジーに投資することで、デジタルトランスフォーメーションのフロンティアを推進しています。 COVID-19は、データを使用して積極的な意思決定を行い、パンデミックとの戦いで一歩先を行く機会と見出だしました。

Manoj Kumar Mishra、電子情報技術長官、オリッサ州政府

 

 

ベンガル湾にあるインド東部の州であるオリッサ州政府は、SAS Viyaを搭載した高度なアナリティクスおよび視覚化プラットフォームを使用して、4,600万人の住民に対するCOVIDパンデミックの影響をよりよく理解および管理しています。 オリッサ州の市民と政府関係者は、感染率、入院、利用可能な医療リソースの傾向を追跡するための単一の信頼できる情報源として、オリッサ州のCOVID-19ダッシュボードを積極的に使用しています。 このプラットフォームを使用して、市民登録、連絡先追跡、健康状態、および検疫コンプライアンスに関する大量のデータが集約、変換、および処理されて、洞察が生成されます。 豊富な視覚化に加えて、このデータは、感染のピーク時間を予測し、州による最適なインフラストラクチャの増強と分散をモデル化する際にうまく使用されています。SAS Viyaによるダッシュボードはオリッサ州政府がウイルスの先を行き、命を救うことを可能にしました。

おわりに

今回はサステナビリティ経営においてアナリティクスの役割や事例を、SASのCSRの取り組みの中からData for Goodを中心に紹介しまた。ご興味のある方は是非SAS CSRレポート*5をご覧ください。
次回は、SASの環境プログラムにおけるアナリティクスアプローチを紹介する予定です。

 

 

 

 

参考文献
*1: 経産省「SDGs経営ガイド」
https://www.meti.go.jp/press/2019/05/20190531003/20190531003-1.pdf
*2: 経産省「価値協創ガイダンス解説資料」
https://www.meti.go.jp/policy/economy/keiei_innovation/kigyoukaikei/Guidance_Supplement_Japanese.pdf
*3: SAS Blog - Why we need analytics to guard earth’s natural capital, by James Hunt
https://blogs.sas.com/content/sascom/2021/09/16/analytics-to-guard-natural-capital/?utm_source=None&utm_medium=social-voicestorm&utm_content=c727a170-ad87-4063-92e1-30bfb21b14af
*4: SAS Blog - Kicking carbon with analytics – 3 industry examples, by Tim Fairchild
https://blogs.sas.com/content/sascom/2022/04/11/kicking-carbon-with-analytics/?hmsr=joyk.com&utm_source=joyk.com&utm_medium=referral
*5: 2020-2021 Corporate Social Responsibility - SAS
https://www.sas.com/content/dam/SAS/en_us/doc/other1/csr-107835.pd

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