4月8日から9日まで、米国コロラド州デンバーにおいて、年次のSASグローバルイベント「SAS Global Forum」が開催されました。
今年のSAS Global Forumには、2月に開催された和歌山県データ利活用コンペティションにてSAS賞を受賞した専修大学のチームを招待しました。
SAS Global Forumでは、毎回、学生・教員が参加するAcademic Summitが開催されますが、今年も4月8日に開催された本イベントをレポートいたします。
今年は初めての試みとして、メインイベントのAcademic Summitの前にProfessor SessionとStudent Sessionがパラレル・セッションで開催されました。
Professor Session (4/8 13:30-15:00)
「Calling All Professors! It’s Never Too Soon to Start Teaching Analytics. The Workforce Is Calling!」と題し、大学教授が複数のテーブルに分かれ、以下のテーマについての講演とディスカッションが行われました。
- 現在、アメリカには約200の修士課程データサイエンス・プログラムがあります(10年前は存在しなかった!)。これらの多くは「統計学部」や「理学部」といった単一の学部ではなく、「〇〇センター」や学際的な組織の下に作られています。これは、データサイエンスが数学・統計学・計算機科学・ビジネスといった多数の領域が関連するためであり、また、バックグラウンドの知識が異なる複数の領域の学生が互いにコミュニケーションすることにより、実際のデータサイエンティストとしての現場で必要な「異なる部門にデータ活用の必要性・効果を説明する能力」が養われるためでもあります。各大学では、実際どのような学部でデータサイエンス・プログラムが実践されていて、どのような形が理想かについて議論されました。
- アナリティクスの素養としては、数学・統計学・計算機科学・ビジネスの能力が挙げられますが、最も重要な能力は物語作り(storytelling)だと言われます。これは、データ分析は様々な手法・実装があるが、その技術を実際のビジネス・社会で活かすためには、「何のために」「どのようなデータを」分析すれば「何が実現できるのか」をはっきりさせる必要があるからです。このstorytelling能力を養うためには、どのような教育が必要かについて議論されました。
- 教育プログラムをより魅力的にするには、その内容だけではなく、さまざまな付加価値が必要です。例えば、単位修得度合いの管理、キャリア・メンターやインフラ・環境の提供などがありますが、どのような付加価値が必要かについて議論されました。
これらは、いまだ答えのない問題ではありますが、各大学・教員で情報交換しながら、よりよいプログラムを実践していく必要があります。
Student Session (4/8 13:30-15:00) ~専修大学生によるレポート~
「Attention Students! Are You Job Market Ready?」と題し、主にデータサイエンスを学ぶ大学院生がデータサイエンス業界に就職するために必要なスキルを学ぶというものでした。3人のプレゼンターは、「魅力の伝わる履歴書(CV)の書き方」、「LinkedInのフル活用法」、「魅力的な話術」について講演しました。
まず、「履歴書の書き方」では、リクルーターが我々一人辺りの履歴書にどれくらいの時間を割いているかという問いがオーディエンスに投げられました。各々が5-30分と回答する中、正解は4-5秒でした。そして、その4-5秒のうちにいかにリクルーターの目にとまる記述を行うべきかが説明されました。この発表において、データサイエンス業界ならではと感じたのが、Githubのようなページを履歴書に記載することでこれまでの自分のスキルを効果的にアピールできるという点でした。
次の「LinkedInの活用法」では、まずオーディエンスにどれだけLinkedInを使用しているかという問いが投げられました。驚いたのが、参加しているほぼ全ての院生がLinkedInを既に活用しており、インターンシップや就職活動に生かしているとういうことでした。また、企業の情報もLinkedInの企業アカウントから発信されることがあるので積極的にフォローし、自分のネットワークを広げ、良いネットワーク構築しようというアドバイスもありました。
最後に「魅力的な話術・プレゼン法」では、話の単純性、話の構造、記憶の定着性を意識して、発表を行うことが必要だという主旨の発表でした。そして、これらを行うための具体的なテクニックとして、意外性のある話や誰もが経験したことのあるような例に落とし込むことが必要であることを学びました。
全体を通して私が感じたこととしては、日本における就活のスタイルと大きく異なることに驚きました。しかしながら、その一方で、必要とされているスキルや方略は、日本とあまり変わらず、伝え方やアピールの仕方は少なくともデータサイエンスの業界では全世界共通なものであると確信しました。
これまで、私はいくつかの国際学会に参加してきましたが、SAS Global Forumはアカデミックな雰囲気とは少し異なっていました。SAS Global Forumは、大学(アカデミック)だけでなく、データを有する企業、そして、データ分析を行う企業の3者が融合して、現実の様々な問題にどのように対処し、どのような結論をだすのかを議論する貴重な場でありました。
Academic Summit: Changing the Future of Data Science and Analytics (4/8 15:00-16:15)
学生・教員を中心とした数百名を対象に、次のような講演が行われました。
「The World Needs All Kinds of Minds」 Dr. Temple Grandin
Grandin博士は、コロラド州立大学の動物学の教授です。自閉症を抱えながら社会的に成功した人物として、2010年に「Temple Grandin」という映画も公開されました。自閉症はabnormalityの一つと考えられていますが、「世界の捉え方が人と異なる」と解釈することができます。学校ではいわゆる「成績」はよくありませんでした。しかしながら、エジソンやアインシュタインなど多くの「知の偉人」は同様に学校の成績は悪く、「普通の人とは異なる視点」を持つことで成功を収めた例は多数あります。Grandin博士も自身のことを「Visual Thinker」と呼び、視覚的な世界の捉え方が得意でした。自閉症やAD/HD、アスペルガーのような社会的な適合障害を持つ子供は、「社会に入る」ことによって社会性を身につけながら、自身の特異性を発揮できることを主張しています。高校を卒業して建築関係の仕事につき、奇抜な「牛小屋」を設計したりしました。その後、食肉業界を経て動物学の研究者となりました。学生へのメッセージとして、自身の例を挙げながら、特異性を活かすことを考えるようにアドバイスしています。社会には多様な能力・知識が必要であり、過度に一般化してはいけないと述べました。
SASでは、次世代のアナリティクスを担う学生、その教育に従事する教育機関へのサポートを積極的に行っています。SAS Global Forumは、学生や教育機関がネットワークを広げ、アナリティクスの発展を議論する貴重な場でありました。
SAS Japanでも、来る5月18日(金)に年次イベント「SAS Forum Japan」がグランハイアット東京(六本木)にて開催されます。今年は特別セッションとして、「データサイエンティスト・キャリア・トラック」が設けられ、アナリティクスを活用する企業や現役のデータサイエンティストの方々が、学生・大学教員に向けた講演を行います。データサイエンティストとしての将来を考えている学生の皆様のご参加をお待ちしています!