本記事では、Sunny Compass - analysis and suggestion of life satisfactionについて、チームメンバーに直接お話を聞き、背後にある思いやチャレンジなどについて解き明かします。
ユニークなチーム結成
チームSunny Compassは経済産業省主催のDX人材育成プログラム「マナビDX Quest 2022」(以下、マナビDX Quest)で出会ったメンバーで構成されるシビックテック・チームだ。 勤務先や居住地もまったく異なる中、オンライン上で交流し、それぞれの強みや専門性を活かしてデータとテクノロジーを使った課題解決に取り組んでいる。
SAS Hackathon 2023 参加の背景
SAS Hackathonが開催されるという話を聞き、どのようなテーマで取り組むかメンバー全員で話し合った。彼らにとって今回が初めての「ハッカソン」参加となったが、「人生の明るい方向を示す羅針盤になる」という想いをチーム名に込めたチームSunny Compassにとって、人々のウェルビーイングの向上を助ける取り組みをすることはメンバー全員が一致するところだった。データは自前で用意する必要があったため、内閣府の生活満足度調査データを使うことにした。
生活満足度調査の分析結果を可視化するモバイルアプリの開発をゴールに設定しました。ユーザーがアプリ上で性別、年齢、そして生活満足度を入力すると、自分が生活満足度の観点でどのくらいの位置にあるのかが分かり、どのような項目・活動に気を配ると更に生活満足度を向上させ得るのか、という改善に向けたヒントを得られる、というものです。
生活満足度調査データを使用するためには、内閣府に書面申請をする必要があった。書類審査に1週間程度要したが、市民に有益なアプリ開発のために利用するという点が評価され、無事データの提供を受けることができた。
ハッカソンに取り組む上で直面した様々な課題
初めての経験
最大の課題は、メンバー全員がハッカソンと呼ばれるイベントに参加するのは初めてであり、ハッカソンではどのようなことをすれば良いのか全く想像がついていなかったという点だった。また、メンバー全員がSAS製品を使ったことがなかったこと、モバイルアプリの開発も初めてだったこと、などがその他の課題として挙げられた。
完全リモートでのコミュニケーション
メンバー全員が対面での面識が全くないところからのスタートだった。そのためグループチャットツールで頻繁に集まり、会話ベースで進捗やタスクを確認し合った。プロジェクトマネジメントの観点でタスクの洗い出しをして割り振るなどということよりも、口頭・テキスト問わずコミュニケーションを密に行って、動ける人が動く、全員が各自今抱えている問題について理解し助け合う、励ます、ということを重視した。
マナビDX Questの経験から、メンバー同士助け合うことが何よりも重要ということを全員が理解していたのと、メンバーごとに関連技術の知見・経験が少しずつあって、それを随所随所でうまく活かしたり、メンターの人が付いてくれて質問などに対応してくれたので何とかなりました。
具体的な取り組み内容
オープンデータを活用
内閣府による生活満足度調査のデータには、個人からの回答に基づき、様々な変数とともに、生活満足度が数値で表現されている。満足度が高いほど値が大きくなる。全体的に欠損値が多数含まれていたため前処理が必要だった。
これとは別にe-Statから取得した「都道府県・市区町村のすがた(社会・人口統計体系)」というデータも使用した。こちらには都道府県ごとの人口、世帯数、ヘルスケア関連情報、などが入っている。
モバイルアプリ
メインのモバイルアプリの開発では、「どのような項目・活動が生活満足度の向上に役立つのか」という問いに答えられるよう、生活満足度を目的変数とした機械学習モデルを作成した。この機械学習モデルには変数ごとに変数重要度を出力できるタイプのものを採用し、最終的に変数重要度が高い順に上位5つまでの変数(重要変数)を取り出した。これらの重要変数をREST API経由でモバイルアプリから読みに行くという仕組みを作った。
SAS ViyaはREST APIに標準対応しているのでこういった仕組みづくりも無理なく進められました。
モバイルアプリ自体はオープンソースライブラリを利用して開発した。アプリの想定利用ユーザーは個人ということにした。ユーザーがアプリ上で性別、年齢、そして生活満足度を入力すると、類似の属性を持つ人の中で自分が生活満足度の観点でどのくらいの位置にあるのか、ということが可視化され、加えてどのような項目・活動に気を配ると更に生活満足度を向上させ得るのか、という改善に向けたヒントを取得できるようにした。
可視化ダッシュボード
次に可視化ダッシュボードの作成では、想定利用ユーザーを国や自治体の政策立案担当者とし、個人単位ではなくマクロ的な視点でデータを深堀りするための分析ツールというコンセプトに基づいて開発を進めた。モバイルアプリと同じ生活満足度調査データを使っているが、こちらは都道府県ごとに集計し直し、更に都道府県別の統計情報を加味するため、e-Statのデータと結合させたうえで利用した。
都道府県ごとにどの分野の満足度が低いかや、個人の満足度と相関が高い統計指標にはどのようなものがあるかをダッシュボード上で容易に確認できるようにした。
SAS Visual Analyticsの画面でユーザーが自分の好きな切り口でインタラクティブに確認できるダッシュボードに仕上げることができました。データの可視化によってそれまで見えていなかったことが見えてきました。自分がそれに気づき、他人にもそれを見てもらうことの面白さにSAS Visual Analyticsが気づかせてくれました。
成果と展望
何が生活満足度を上げるのかという問いに対しては、画一的にこれが正解、というものは無いものの、今回開発されたモバイルアプリは本当に困っている人にとっては一つのヒントになり得る可能性がある。一方、可視化ダッシュボードは政策立案担当者が証拠に基づく政策立案(Evidence Based Policy Making (EBPM))を行ううえで助けとなる可能性を秘めている。将来的にはモバイルアプリと可視化ダッシュボードを統合し、より深い分析ができるようにしたいと考えている。
チームSunny Compass
メンバー
- 安達雅人 (ハンドルネーム: captain10): 北海道出身、東京在住のシステムエンジニア。医薬・医療関係の案件に長く従事。株式会社ジャパンテクニカルソフトウェア ビジネスソリューション本部所属。
- 早川奈美 (ハンドルネーム: nami): 滋賀県在住。分析会社の技術者で、データの解析や可視化が趣味。データサイエンスは学習中。
- 柴田一栄 (ハンドルネーム: nian): 三十数年前の小学生時代からパソコンいじりが大好きで、パソコン雑誌に載っていた簡単なゲームのプログラムを入力して遊んでいた。でも専門は化学工学だという変わり者。
- 増田武史 (ハンドルネーム: taktak): 長野県在住。家庭菜園とデータサイエンス、晴耕雨Dataの生活を目指している合同会社ハブファン代表社員。
- 戸田和子: 翻訳・通訳、研修講師などを請け負う大阪在住のフリーランス。DXに関心を持ち、データサイエンスや各種SaaSツールなどを学習中。
- 坂間俊朗: 沖縄在住。専門学校講師。SAS Hackathonの募集情報を見つけメンバーに紹介した。