医者の診断に例えて学ぶ
AIを用いたセンサデータ分析システムに関するよくある誤解について
製造業で盛んに導入されているセンサ。 そのセンサデータを分析してビジネスインパクトのある結果を出すには、どのようにしたら良いのでしょうか? データ分析を成功させるためには、様々な要素が考えられますが、ここではセンサデータの質に注目したいと思います。いくら高度なデータ分析手法を用いても、分析対象のセンサデータが正しく取得できていない場合は、結果が出ないことは容易に想像できますが、あまり議論されることはありません。 これは、センサ計測とデータ分析の両方を視野に入れた幅広いノウハウが必要となり、Information Technology (IT) と Operational Technology (OT)との融合という課題に行き着くためです。 本ブログでは、このマニアックな話題を、医者の診断に例えながら、わかりやすく解説していきます。
はい、今回は、「生産ラインにおけるAIを用いた状態監視の種類」について解説します。
図1に示した通り、種類としては4つに大別されます。 どれを実現したいのかで、取得すべきセンサデータの種類や、データ分析システムの構築難易度が変わってきます。 読者の皆様は、どれを実現したいとお考えでしょうか?
図1.生産ラインにおけるAIを用いた状態監視の種類は4つある
1つ目が異常検知です
これは生産品の品質異常や生産ラインの設備機械の異常を捉えるものであり、学術的には「教師なし学習」と呼ばれる手法を用います。この場合、異常時のデータを予め用意する必要がないため、不具合データの取得が困難な製造業の現場において有効となります。例えば、正常時の各種センサデータを基準とし、どれだけ正常状態から離れたかで、異常を検出する方法です。
2つ目は原因診断です
これは異常発生後に、何が原因なのか特定するものであり、学術的には「教師あり学習」と呼ばれる手法を用います。この場合、異常時のデータを予め用意しておく必要があります。 原因診断が必要とされる理由としては、対処方法の検討をつけるためです。 製造装置であれば、点検箇所や分解すべき箇所を特定することにより、分解コストや部品交換コストを抑えることができます。 これは大型機械の場合、特に重要であり、この原因診断は「精密診断」とも呼ばれ、まさに職人技が要求される分野です。
3つ目が品質/寿命予測です
これは各種データから、生産品の品質を予測したり、稼働中の設備や部品が、あとどれくらい使用できるか日数を予測するものです。 例えば、生産品の品質予測が可能になると、抜き取り検査の精度が向上し、ランダムにサンプル取得をするのではなく、品質上懸念がありそうなものをサンプルして効率良く評価できるようになります。 また、設備や部品の寿命予測が可能になれば、高額な部品をできるだけ長く使用することができますし、メンテナンス日程を戦略的に決めることも可能になります。
4つ目がパラメータ最適化です
これは、期待した品質で生産するためには、どのような製造環境や材料構成が必要なのか、また、どのように製造装置を制御したらよいのか決定することができます。
図1に示したデータ活用の流れは、人間の健康診断と全く同じであり、1番から4番まで順番に実施する必要があり、飛び越えることはできません。 医療に例えますと、1番の「異常検知」は、正常時との変化を検出するものであり、いわば定期健康診断に相当するものです。 2番の「原因診断」は、定期健康診断で早期発見された異常を、さらに掘り下げて精密検査を行うものです。 3番の「品質/寿命予測」に関しては、医学でも同様であるが、これまでの長年にわたるデータが揃うことにより、治癒率予測が可能になります。 4番の「パラメータ最適化」は、健康で過ごすための予防方法だと言えます(図2)。そして、豊かな人生を過ごすために、どなたも4番の予防までを期待されておられると思います。
図2. 医療診断の流れと、生産ラインにおける品質管理/設備状態監視の流れはよく似ている
生産ラインでも同様です。最後の4番まで実現できれば、ビジネス上の費用対効果(ROI)は最大となります。 それには、分析に必要な各種データを準備する必要があり、その質も重要になります。
しかしながら現実問題として、いきなり4番から実現することはできないため、4番のパラメータ最適化の実現をゴールとしながら、1番から順番に実現していく必要があることを御理解ください。また、医学でも同様のことがいえるかと思いますが、生産ラインにおける状態監視対象物によっては、1番の異常検知が技術的な限界となり、2番以降に進めない場合もあります。 この見極めも重要となってきますが、この点は本ブログのテーマとして別途取り扱いたいと思います。