SAS Japanによる小学生向けプログラミング教育: 玉川学園で体験授業を実施

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私が小学生のころ、21世紀になると自動車は空を飛び、真空チューブの中のリニアモーターカーは時速2000kmに達するものだと思っていましたが、現在のような情報化社会は想像できていませんでした。初めてパソコンに触ったとき、何をするためのものなのかさっぱりわからなかったことを覚えています。

いまの小学生が大人になるころは、どのような社会になっているのでしょうか。10年先、20年先を想像することは難しいですが、子どもたちは、その社会で生きるための力を身につける必要があります。

文部科学省は、子どもたちがどのような進路を選択したとしても、急速に情報化される社会の中で生きる力を持つためには、『情報技術を手段として使いこなしながら、論理的・創造的に思考して課題を発見・解決し、新たな価値を創造する能力・資質』が重要になるとし、義務教育の課程における小学生を対象としたプログラミング教育を2020年から必修化しています。

ここでいう「プログラミング教育」とは、いわゆる「プログラム・コード」を書くトレーニングをするものではありません。コンピュータに意図した処理をさせるには、どのような手順を取ればいいのか、可能な動きを表す記号とその動きの組み合わせで論理的に組み上げていく能力を養うものです。

SASは、初等教育からのアナリティクス人材の育成支援のために、さまざまな教材をCurriculum Pathwaysの中で提供しています。プログラミング教育の教材CodeSnapsは、ボール型のロボットをビジュアル・プログラミングにより動作させるiPadアプリです。今回は、2018年12月20日に学校法人玉川学園の小学部で実施した「プログラミング・チャレンジ with CodeSnaps」の模様をレポートします。5年生、6年生からなる5チーム、さらに大人による1チームも参加して行われたチャレンジは、生徒自らの希望による参加形態もあり、新たな経験に対する意欲や主体性にあふれる貴重なイベントとなりました。

早期のプログラミング体験から学ぶ「トライ&エラーの大切さ」と「リーダーシップ」

Classroom and students during introduction

チャレンジの冒頭の「これまでプログラミングを経験したことがある人はいますか?」という質問に対しては、約半数の生徒の手が挙がり、これは課外活動も含めた経験とはいうものの、単なるスマートフォンやタブレットのユーザーといった視点にとどまらず、いかにITが子どもたちの生活の中で身近な存在になりつつあるかを明確に示しているといえます。

チャレンジでは、まずその目的として以下の3点を示しました。

  • プログラミングを体験し、理解する
  • トライ&エラーの大切さを学ぶ
  • グループ内のそれぞれの役割で「リーダーシップ」を発揮する

命令ブロックを組み合わせたボール型ロボットとのコミュニケーション

今回の実施したゲームは、チーム毎にフロアに設置された正方形のボードを使って、プログラミングによって動く直径10cmほどのボール型ロボットが、スタートの位置からゴールの位置に到着するまでの時間を競うタイムトライアルでした。ただし、ここにはコース内に設けられた青と緑の直径40cmの2つの輪の中に一旦停止し、同時に赤と黄色の2つの輪には触れてはいけないという制約があります。

CodeSnaps Challenge MapBall-shaped robot

ボール型ロボットを動かすためのプログラミングは実際にコードを書くのではなく、CodeSnapsアプリを通して、命令が記載されたカードのQRコードをiPadのカメラで読み込み、アプリのダッシュボード上で並べることで、ボール型ロボットに命令を出すことができます。

Scanning the codeCodeSnaps App

今回のチャレンジで使用した命令カード:
- MOVE FORWARD(METERS)...  直進(パラメータで距離を指定)
- TURN LEFT(DEGREES)... 右に曲がる(パラメータで角度を指定)
- TURN RIGHT(DEGREES)...  左に曲がる(パラメータで角度を指定)

プログラムの「誤差」をトライ&エラーで学習、改善

チャレンジのスタートに際して、チーム内では次の3つのタスクを担当する役割分担を行いました。

  • プロダクト・マネージャー:手順の計画
  • コーダー:コード・ブロックの組み立て
  • テスター:実際にロボットを動かし、修正案を立案

Students first measured the courseその後の生徒たちの行動で想定外だったのは、ほとんどのチームがまず興味本位でボール型ロボットを動かしてみるだろうという予想を裏切り、各チームの行動は綿密な打ち合わせから始まったことです。START位置からどこまで前進(MOVE FORWARD)し、どちらの方向に曲がる(TRUN LEFT / RIGHT)かというコースが設計され、続いてiPadのカメラで命令カードを読み込み、ロボットを動かすプロセスに進みました。興味本位でロボットを動かす前に巻き尺を使ってコースの長さを測定する計画性は、課題に対する子どもたちの真剣さの表れかもしれません。

各チームがロボットを動かし始めてすぐに気付いたのは、ボール型のロボットであるため計算通りには動かず、ボードからはみ出してしまったり、予期しない角度に曲がってしまったりするなどの「誤差」が発生する点でした。各メンバーは「進み過ぎ!」「ちょっと距離が足りない!」など、トライ&エラーの中で情報を収集し、微調整を行いました。

Communicating within teamTuning the directionCommunicating within the team

タイムトライアルという意味でコース設定は重要な意味を持ちます。まず安全なコースで選択して、ロボットをゴールまで導くことに成功したチームは、時間内で何度でも行えるチャレンジの中で、さらに早いタイムが期待できる難しいコースを設定するなど、次々と試行錯誤を繰り返しました。

その結果、最初に成功したチームのタイムは16秒95でしたが、各チームとも回を重ねるごとにタイムを短縮し、最終的にすべてのチームが10秒台を記録。そして驚くべきことに、時間終了間際には9秒75というベストタイムが生まれました(ちなみにゲスト参加の大人チームのタイムは13秒10がベストという最下位の結果に終わりました)。

Students deeply investigated how the ball movedTeam recorded the best time

グループ・ワーク、リーダーシップから生まれる成果の向上

チャレンジ全体の大きな成果として挙げられるのは、短い時間の中で多くの情報を収集し、改善につなげるという学習能力とチームワークが発揮された点でした。チーム内の役割に応じたグループ・ワーク、リーダーシップも効果的に機能し、回を重ねるごとにどのチームもタイムを短縮させました。

移動距離だけで考えると、ロボットを対角線上に移動するコースがベストでしたが、このコースでは接触してはいけない赤と黄色の円の間の狭い空間を移動しなければなりません。最初は慎重に安全なコースを選択するチームが多かったですが、タイムをさらに短縮するために、中央の狭い空間を通るコースを選ぶチームが続々と登場し、チャレンジを成功させていきました。

各チームのメンバーの話を聞いてみると、「動かしているうちに、どれくらい余計に転がってしまうか、どれくらい多めに曲がってしまうかが分かってきたので、それも計算しながらプログラミングしました」という答えが返ってきました。誤差を予測しながら改善を繰り返す、まさにトライ&エラーが実を結んだ結果だと言えます。

優勝チームの9秒75というタイムは、全チーム最後のトライアルで生まれました。5チームの中で唯一の女子生徒のみで構成されるチームが記録した10秒05というタイムは、みごと準優勝に輝く結果となりました。

Team won the first placeTeam won the second place

プログラミング授業の重要性を示す教育的な成果

今回のチャレンジ企画について、中学部長と教育部長を兼務する伊部敏之先生は、「本学園では次期学習指導要領を踏まえて、以前からプログラミング的思考力を高めるための取り組みを継続的に行ってきました。それだけに2020年からの新カリキュラムの実施を目前に控えたタイミングで、こうしたチャレンジの機会に恵まれたことは幸運だったと思います」と話します。

今回のチャレンジの手応え、成果についても、伊部先生は「実際にやってみて、こうしたチャレンジには当初は想定していなかった子どもたちの新たな可能性を感じることができる、さまざまな要素が含まれていることに気付きました。私たちの教育的な理念とSAS Japanの考えが一致した非常に価値ある企画だったと思います」と評価をいただきました。

また、今回のチャレンジの成果の背景には、同学園におけるこれまでのコンピュータ教育も挙げられます。中学部 教務主任の中西郭弘先生は「当学園では、すでにITのリテラシーを高めるためのカリキュラムを多く実施しており、すべての生徒がある程度のタイピングができるレベルにまで達しています。自由研究という形で1年に1度の頻度で成果を発表する場も設けており、そこではPCを使った文章作成やプレゼンをするといった機会もあり、こうしたリテラシーは5~6年生のレベルであればかなり浸透しています」と話しました。

「遊び心」を盛り込んだ学校教育の新たなアプローチ

一方、SAS Japanの視点でも、今回のチャレンジからは以下のような「気付き」が得られました。

  • 現在の小学生は、想定より「IT慣れ」している
  • 小学生への教育という意味では、今回のような「遊び心」を取り入れたアプローチが有効
  • プログラミングの理解とともに現実的な世界で発生する誤差を認識し、それを解消するためのトライ&エラーのアプローチが重要
  • 自分の役割の理解・遂行と同時に、チームとしての目標達成に向けたコミュニケーション、チームワークが不可欠

今回のチャレンジでは、各チーム内で「プロダクト・マネージャー」「コーダー」「テスター」の役割分担を支持しました。これは、アナリティクスの実践サイクルを想定しています。抱える課題に対して、どうやれば解決できるのかに対して仮説を立て、その検証のためにチームとしてトライアンドエラーを行うことを体験し、将来のアナリティクス・スキルの礎となることを期待しています。

今回の「プログラミング・チャレンジ with CodeSnaps」は、いわゆるSTEM教育の一環として、小学校のプログラミング教育支援へのチャレンジとして実施しました。全体を通じて特に印象的だったのは、子どもたちの真剣さと楽しげな様子でした。自身の課題を認識し、自主的に困難に挑戦することは、子どもたちにとっても良い機会になったのではないでしょうか。

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About Author

Naohiro Takemura (竹村 尚大)

カスタマーアドバイザリー本部 公共ソリューショングループ シニアビジネスデベロップメントスペシャリスト

認知神経科学の研究者として大学・研究機関での勤務を経て、SAS Japan に入社。大学等での研究・教育におけるSASの活用支援を推進しています。

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